モヤモヤとする思いを抱えて、鳴れてしまった番号に電話をかけた。
呼び出し音がただ鳴る。
………早く出てよ、と思った時。
呼び出し音が止まった。
一瞬切れたのかと思って画面を見たけど、ちゃんと通話中になっていて繋がっていることを知った。
「もしもし?」
でもいつもなら諷都くんが倉庫に行くまでの指示を手短にしてくれるのに、返事の欠片すら返ってこない。
……あれ?
「諷都くん?」
おかしいな、と思った時。
「………諷都じゃねぇ。俺だ」
………?
誰?
酷くかすれた声。
風邪声のような気もしなくはない。
電話を掛ける相手を間違えたのかと思って表示名を見るが、ちゃんと暴走族と表示されている。
おっかしいなぁ…と思ってとりあえず通話を切ろうとしたとき。
「………おい?莉々香?」
懐かしく感じる呼び方が聞こえてきた。
「…………龍翔?」
……………ん?
え?
……もしかして?
「さっきから言ってんだろ」
嘘でしょ!?
思わずあたしは驚きのあまりにスマホを落としそうになった。
「え、声どうしたの!?」
普段の龍翔とはあまりにも違う声。
だから全く気付けなかった。
暫くここ数日龍翔と顔を会わせてないことも、気まずい雰囲気だったことも忘れて、あたしは思わず声を荒げていた。
「………風邪引いてんだよクソが」
げほ、ごほと辛そうな咳が電話越しに聞こえる。
「大丈夫…じゃあなさそうだよねぇ」
ちゃんと寝れば?と言おうとしたとき。
「………死にそう」
ぴきん、と固まってしまった。
酷く、龍翔から弱弱しい声が聞こえた。
………嘘だろ。
あの威張りまくって怖い雰囲気の龍翔から…こんなか弱い声が出るなんて。
俺様オーラをぷんぷん出している龍翔が?
ありえない。
あたしはかなりの衝撃を受けた。
「だ、大丈夫っ?倉庫だよね?周りに人は??」
「………倉庫じゃねぇ。自分の家だ」
「え、家?…ってことは今一人?」
「一人」
それってヤバくない…?
「熱あるの?」
「…熱とか測れるわけねーだろ」
いやいやいや
待てよおい。
かなり辛そうで電話越しにでも聞いてるだけでこっちまで辛くなるんだけど?
絶対熱あるよね?
その声普通じゃないよね?異常だよね?
熱も測らず何してんの、と内心たくさんの疑問が生まれる。
「な、何か食べるものは…?」
「ねぇよ」
ねぇよじゃねぇよ!
食べ物ないとかどうするの!?
何も食べずに風邪なんて治る!?
治んないよバカ!
あまりにも風邪をひいていると言いうのにバカなことをしている龍翔に。
いつもとは全く違う、弱音をはく龍翔に。
一人ぼっちっていう龍翔に。
「………家、どこ?」
あたしは自分を重ねてしまったのかもしれない。
じゃないと、絶対にそんなことは言わない。
ただあたしも一人の辛さが分かるだけで。
苦しくても苦しくても一人ぼっちで、泣いても叫んでも誰も気づいてくれなくて。
そんなの辛すぎるから。
「………駅の、すぐ近くの一番高いマンション最上階」
「今すぐ色々買っていくから、少し待ってて」
はぁ、と重たいため息を吐いて駆け出した。