「__________咲哉くんのバァカ」
ふと、あたしが倒れたときにお世話になったという【サラ】の存在が頭に浮かんだ。
絶世の美女なんて言葉じゃ表せなくて、数々の男を手玉に取っているという頂点を極める人。
内心はそんな女誰だよ、とかあたしとレベル変わらないんじゃないか何て思ってるけど…。
咲哉くんは、その人の事を好きなんだろうか?
惚れない男なんていないらしいし?
まだあたしはそのサラって人見たことないけど……。
もしも、自分よりもはるかに可愛ければ……心折れそう。
「………んね、咲哉くん?」
「………はぁ、何か?」
「サラって人、そんなに綺麗なの?」
「………は?」
「諷都くんも、メガネくんも、みんな言ってる」
「……は?」
咲哉くんはそれから少しの間考え込むように時間をためて。
「まぁあの人は綺麗なんて言葉じゃ表せないほどだな確かに」
………なにか、ぐさりと心に刺さるものがあった。
どろり、と何かが心に流れ込む。
「……ふぅん。そっかぁ」
あたしの口から出た言葉は、酷く冷たいものだった。
………そっけないと咲哉くんに不快な思いさせちゃうじゃん。
心ではそう思ってるんだけど、何か気分がそぐわない。
「もう、いいや」
いつもはこれから咲哉くんを怒らせるまでぎゅうぎゅうとくっついているんだけど、今日はもう気分が乗らなくてそっと咲哉くんから離れた。
「………迷惑かけてごめんねぇ。あたし、帰る」
そして俯いて咲哉君の顔を見ないまま、あたしはクルリと方向を変え、スタスタと歩き去った。
…………何なの本当。
何で、こんなにイライラするの。
何でこんなに苦しいの。
何で__________こんなに痛いの?
あたしはまだ何も知らない。
知ろうともしない。
そして知ろうともしないことは、時として罪となる。