「こちらこそ、では」
足早にここを去ろうとしだしたこいつは、満更でもないのかもしれない。
ドアを開けて外に出た彼に続き、あたしも出る。
そして……。
「あれ、遠藤(えんどう)さん?」
初めて彼の名前を呼んだ。
すると駐車場に止めていた車に向かっていた足を止めた、こいつ。
こちらを向いて固まっているのをいいことに、彼に近づく。
そして彼のネクタイを軽くつかみ、ぐっと背伸びをする。
「……あの人に、うまいこと言っておいてくださいよ?あたしは純情で可憐だったって。もちろん、インターネットの写真流出のことは伏せておくように。……お願いしますよぉ?」
そして耳元で甘く、掠れるように囁いた。
ありえないほどの色気を含んで。
そして背伸びをやめ、引っ張ったせいで緩んだネクタイをきつく締めてやる。
「……顔、赤いですよ?」
そういって微笑めばバッとそらされる顔。
……以外に簡単。
そして軽く頭を下げ、勢いよく車に乗り込んでいった。
あたしにあれだけ嫌味言ってきた仕返しよ、秘書。
やっぱり秘書でもまだ男を捨てきれてなかった。
もう一人は絶対に男捨ててそう。
血まで捨ててそう。
……でもよく考えれば鉄の人間だって、高温で溶かせば鉄は溶けるように人に惚れるんではないだろうか。
今度会ったら、ってか会いたくないけど、試すだけ試してみようか。


