女とこうして近くに居たり、話したりするのは久しぶりすぎて戸惑う。
そして、女に触られることも。
でも美奈さんはあたしに優しく接してくれて。
この人が、悪い人なんて思えなかった。
美奈さんには…どこか暖かい温もりがあった。
少しだけぎこちなさを感じつつも手当てを施してくれていたとき……。
「あれ?美奈?楽しそうじゃん…。お姫様の事、気に入ったの?」
あいつが、やって来た。
でもあいつの姿を見ても恐怖で震えるようなことはない。
「あ、或斗…。莉々香ちゃんのケガの手当てをしてあげてて…。」
そんなあいつに少し怯えながらも話す美奈さん。
そして美奈さんを或斗という男は見下したように睨んで。
「ふぅん?それだけだよね?ナイフとか持ってない?……んまぁ、いいや。美奈、悪いけど席外して」
そう、冷たく言い放った。
……ナイフ?
一瞬疑問に思ったけど、そこまで深くは考えなかった。
美奈さんはあたしと或斗をちらちらと見比べる。
でも、直ぐにベッドから腰を上げ部屋を出ていった。
そして、美奈さんの座っていたところにこいつが座る。
ベッドがギシッと大きく揺れる。
「……美奈がキミに興味を示すなんてねぇ?まぁ、美奈とはもう関わるな。あの子はたまにおかしなことをしだすからねー?危険な目に会いたくなかったら気を付けて?何でも刃物でぶっ刺しちゃうから。狂っちゃうの」
……は?
いきなり何を言い出すのかと思ったら。
……美奈さんが?
信じられない。
あたしを危険な目に会わせるのは美奈さんじゃなくてあんたでしょう?
どんな目に会わせるつもりなんだろう。
死ぬときは痛くない死に方がいいなぁ…。
せめて誰かに抱きしめられて死にたい。
「……あたし、これからどうなるの?」
……そんなことを思いながらも口を開く。
やっぱり殺されちゃうのかな…?
「キミには悪いけど聖龍が来るまでここで過ごしてもらうよ?あいつらには…痛い目を見てもらわないとね。」
…監禁ってことか。
死ぬ覚悟なんてできているはずなのに、殺されないことに少し安堵している自分が汚れて感じる。
まぁ元から穢れてるけど。
でも、聖龍なんて来るはずがない。
あいつらの注意を無視した結果がこれ。
自業自得でしかないし、わざわざ汚れているあたしのために来るはずない。
「……聖龍かぁ…。あいつらにとってあたしはどうでも良い存在だもん。そもそも…あたし姫なんかじゃないし。だから期待しても無駄。来ないよ?」
鋭くこいつを睨みながら言う。
こいつは一瞬驚いたように目を見開くが…。
直ぐに、笑みを作った。
先ほど見せた気持ち悪い笑みではなく、爽やかな笑みを。
顔がもとから整っているから、普通に笑ったらカッコいい。
……って、何考えてるんだろう。
本当にあたしは愚かだ。
「そんな嘘いちいちいいから。」
「……嘘じゃないって。あたし本当に嫌われてるのよ?」
これだけ言ってもこいつは笑みを崩さない。
「……まぁ、いいや。どっちにしてもあんまり変わらないし。」
……今なら、作り物の笑みが不自然なのが良く分かる。
この状況で笑う人って…ただの頭がおかしいだけでしょ。
こいつの作り笑いを見て思う。
でも、そんなことを分かっていてもあたしは笑い続けてきた。
こいつもあたしと同じ人種なんだろうな…。


