気恥ずかしさで何も言えずに唇を噛み締める。


甘い香りと甘い感覚。

甘すぎる刺激はあたしには強すぎて、身体が痺れているみたいだった。


そんなあたしに気付いた一哉は楽しそうにニヤリと笑い、ペロリと自分の唇を舐める。


その仕草が妖艶でただでさえ失神してしまいそうになるというのに、一哉はあたしの顎をくいっと指で持ち上げた。


近付いてくる顔に、嫌な予感しかしない。



「……でも、この甘さは嫌いじゃねぇ。ほら、もっと味あわせろ」


「ちょ、ちょっと……!」



抵抗したって無駄。

甘い雰囲気に飲み込まれて、もう逃げられそうにない。


一哉と過ごす甘い空間が続けば良いと願ったのはあたしだけど、もうそろそろ逃がして欲しかった。


完全に、キャパオーバーです!



「なんなら来年からのバレンタイン、チョコレートの代用はちえりのキスで良いけど?」


「絶対に嫌だ! 意地でもチョコレート食べさせるから!」


「口移しなら、食べてやってもいーぜ」


「えっ」



ずっと憂鬱だったバレンタイン。

また来年からは、別の意味で頭を抱えることになる気がする。


それでもきっと、また彼の部屋に来てしまいそうだけどね。




おわり