「私、優しくなんてありませんよ。朝美さんを見ていれば、そう思えます」
「・・・あの人、昔から朝太に厳しくて。
東堂家の決まりを守るあまりに。
本当はもう少し優しくしても良いと思うのに。
朝太のお父さんも、あの人に敵わなくて。
・・・本当は、朝太の兄や姉より、朝太の方が優秀な跡取り候補だったのよ?」
「え?・・・じゃあ、つまり朝太は優秀なのに外されてしまったのですか?」
「・・・そうよ。でも、あの人は人一倍決まりを守る人。
長男や長女以外の人間が跡取りになることは許されていない、とあの人は言い切り、
誰よりも優秀な朝太を跡取りから外した。
可哀想なのは朝太の兄と姉よ。
今まで仲の良かった子たちと突然離され、大人たちと付き合うことを学ばされた。
仲良くするのは同年代ではなく、大人たち。
これも東堂家の決まりだったから。
そして突然跡取りではなくなった朝太は人が変わった」
人が、変わった?
「付き合うのが難しい大人相手でも、人懐っこい笑みを浮かべながら打ち解けていた
朝太はどこにもいなかった。
いるのは、全く笑わず、笑っても作り笑いだけのまるで人形のような朝太だったわ。
顔が良いことを利用して、多くの女の子と付き合っては別れを繰り返した。
今まで仲良くしていた男の子の彼女までも取り、絶交していた。
いつしか朝太の周りにいるのは、顔と家柄だけが目的の女の子ばかりだったわ。
跡取り候補から外されても、東堂の力はバックについたままだからね。
朝太は実の母親の手によって、人間不信に陥ったのよ。
信じられるのは、自分だけってね」
そんな・・・!
ひどい・・・ひどすぎるよ!
実のお母さんなのにっ・・・!!


