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「彼氏ができた。」
講義終わりの教室で、そんな報告を聞くのはもう何度目だろう。
けれど今回は一味違った。
「今ここにいるメンバーで彼氏いないの頼だけになったね。」
「ね、意外。一番早くできると思ってたのに。」
そう、大学生活ももう2年目の冬。
周りではあわただしくカップルが成立し始めて、とうとう置いてけぼりをくらってしまった。
『先越されちゃったな。』
なんだろう、友達の会話がどんどん遠のいていくような錯覚を覚える。
それは自分だけ恋人がいないさみしさなんかじゃない。
久世の肌の感触、吐息の熱さ、少し甘い香水の香り、そんなものをありありと思い出せてしまうからだ。
階段を何段もとばして上ってきて、もうどうにもならないその何段かがとても大切だったのではないかと不安になる。

