看護師長が病室を出て行った後も、私は呆然と床を見詰めていた。
あれが幻覚だったというの?
確かに、ここに血溜まりがあったのに…
床を撫でてみるが、やはり少しも濡れてすらいない。
私は立ち上がると、ゆらりとベッドに座り肩を落とした。
もう何がなんだか分からない。一体何が現実で、何が幻覚なのか…
あんなにハッキリと見えた血溜まりが幻覚ならば、一体何が現実なのだろうか?
私はベッドに寝転ぶと、天井を見上げた。
あの天井に浮かんでいる赤い手形も、きっと幻覚なのだろう…
そのまま1時間余りが経ち、21時の消灯の時間になった。
私の病室にも、夜勤の看護師が電灯を消しに来た。
「幻覚が見えたんだって?
まあ、たまにある事だから、余りに気にしない方が良いよ」
「はい…」
看護師は窓を確認し、ブラインドを下ろした。
そうか…そうだよね。
記憶を失うくらい頭を強く打っている訳だし、余り悩んでも仕方ないよね。
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