ルカが右手を眺めている。
その手は小刻みに震えていて、俯くルカのまつげが、白い肌に切なく影をつくっていた。
「サラ」
もう一度名前を呼ばれ、私はルカを見上げた。
「おまえが望むなら、俺は魔界を抜ける覚悟がある」
「………」
「魔界は兄上に任せた。おまえが望むなら、俺は人間になる」
「……ルカ。あんた、正気?」
あたしが聞くと、ルカは真っ直ぐな瞳を私に向けた。
魔界を抜けるとか、人間になるとか……。
そんな簡単に出していい答えじゃない。
でもルカは、真剣な、どこか怒っているような目つき。
「おまえを失うくらいなら、このまま消滅したほうがマシだ」
「しょ、消滅…って。そんなことしたらあたしが――」
突然、温もりに包まれた。
腕を引っ張られ、ルカの腕の中へ。
間近で聞こえる、ルカの鼓動。


