「あたしも、まさか記憶が戻るなんて思ってもいませんでした。こんなことって、あるんですね」
「それはサラさんが特別だから」
そう言って、「もう一度抱きしめてもいいかな?」とフランさんはまた両手を大きく広げてあたしに近づいてきた。
だけど……。
「父上。いくら大魔王と言えどそれは許しません。離れてください」
ルカはフランさんを腕で阻止し、あたしを自分の後ろに隠した。
フランさんはあたしを見て、肩をすくめる。
見た目は悪魔でも、普通の親子だ。
微笑ましい。
「ところで、ルカ。あのことはサラさんには話したのか?」
今まで笑顔で話していたフランが、急に真面目な表情になるルカに聞いた。
ルカは静かに首を振る。
「フェスティバルに参加するんだ。話しておかないと混乱を起こすだろう」
ルカはしばらく何かを考えたあと、「わかりました」と小さく頭を下げた。
さっきまで親子だったのに、急に会社の上司と部下のような雰囲気に。


