「執事になったからって暮らしがよくなるわけではないのに、何故かこの職を選んだのです。学校に通うのも、私達家族にとってはとても苦しかったのに」


ヘンリーは、眉を寄せ悲しそうに笑顔を作った。


「ヘンリーのご両親は、今でもまだ魔界で?」


どんな暮らしをしているのか気になって聞いてみた。


ヘンリーがここに就職してまだそんなに経ってないけれど、少しは暮らしがよくなったのか聞きたくて。


「私の両親は、昨年亡くなりました」


……え?


「死因は疲労です」


……疲労。


「ずっと働き続けているのに、ろくに食事も取れていなかったので」


ヘンリーの声が微かに震えだした。


本当なら泣きたいはずなのに、シキのように執事だからと、人の前で涙を流すわけにはいかないと、きっとそう思っているんだと思う。


「私がようやく養成学校を卒業できるとなったその年のことでした」


……そう、なんだ。