震えながら顔を上げると
景色が変わっていた。
薄暗い闇が
一枚ベールを剥がしたように
店の奥にあった壁と見間違うようなカーテンが開き、大きな大きなガラスの水槽が無数の魚を抱きかかえ、透明なる光を照らしていた。
無気力に店に広がるこの音は
水煙草の音ではなく
水槽のポンプ音だったのか
蛍光灯にさらされた水槽は壁一面に広がり
水族館の魚のように
ガラスの水槽の中
彼らは自由に泳いでいる。
私はふらふらと立ち上がり
人工的な世界へ吸い込まれるように歩き出す。
近づくにつれ
大きくなるポンプの音と血の匂い。
無数の魚。
手のひらほどの魚たちが
大きな塊に喰らい付く。
歯を立て
咀嚼(そしゃく)する。
どんなに
水を代えようとも
この赤黒い水が透明になる事はないだろう。
あの人が
きれいに半分 食べられていた。



