「ごめん……嫌だよね。スーパー寄ろうか、私車で待ってるし」


明らかに困った顔をした彼に断られるのが恐くて、誤魔化すように自分から身を引こうとした。切なくなって、横目で見ていた彼から顔を逸らして、窓の外へと視線を移した。


すると、彼は急に左側にハンドルをきり、車の徐々にスピードを落とし、ついに路肩に停車させた。


「拓斗君?」


この行動を不思議に思い、彼の名前を呼んだ。


「……嫌なんかじゃないです」


そう少し小さな声で呟いたあと、助手席の方へと体ごと向きを変えて、前を見ていた視線も一緒に移動させた。ばちっと、彼と目が合い、私は動けなくなった。


「嫌じゃないです。むしろ嬉しい位です。けど、俺なんかがお世話になってもいいんですか?」


「無理しなくていいよ」


「無理なんかしてないですよ。行きたいです。本音を言うと、麻里さんのところ……」


私に気を使ってうんと頷かれるのも嫌で言った私の言葉に、彼は焦ったように口早に話を始めた。


「だから、そんな顔しないで下さい。俺、無理なんかしていませんから、安心してください」


そして、言葉と同時に、ぽんぽんと私の頭を彼が撫でていた。


……え?


すぐに反応できず、ますます私は身動きが取れなくなってしまった。けれどそんな体とは違って、心臓は先程よりも大きく脈を打ち暴れている。……静まれ、私の心臓、いい歳して何こんなにドキドキしてるんだ。


目を合わせていられなくなって、視線が彷徨ってしまう。男の人から頭を撫でられるなんて、久しぶりすぎて、どうすればいいのか分からないんだから挙動不審になっても仕方がない。まだそこまでの年齢でもないはずなのに、恋愛から遠ざかっていた分、枯れてしまった気がする。


拓斗君はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、クスクスと笑いながら手を私の頭の上からハンドルへと移動させ、また車を走らせ始めた。心臓が騒がしくて息が詰まるような状況から開放されホッとしたと同時に、感じていた彼の体温が離れてしまった事を寂しいと思った。


本当、久しぶり過ぎる感覚。私でもまだこんな感覚が存在していたことが、些細な事かもしれないけれど嬉しかった。