彼が虚勢をはる理由






周りの喧騒に掻き消されそうな小声で、夏野君の言葉がかろうじて聞こえた。
その言葉に、私は再び夏野君の顔を見る。
夏野君はこっちを見ていたけど、その顔は真っ赤に近かった。

その返事は勿論嬉しかったけど、むしろ、そういう返事をしてくれた事に驚いた。
だって、普通に考えたら、"YES"の確立なんて、50%を切っているのだから。
……えーっと、次に言うべき言葉は何だっけ? 驚きのあまり、返すつもりだった言葉が出てこない。けど、このままじゃ何も進展しない。
私は顔が凄く熱いのを感じながらも、何とか次の言葉を絞り出す。そのまま右手を差し出した。


「…宜しく御願い、します」


……えーっと、取るべき行動としては、これで正しい筈。あとは、夏野君がこの手を握り返してくれれば、万事OKだ。
夏野君の真っ赤なイケメン顔を見ているだけで、こっちまで赤面に拍車がかかりそう。暑さでドリンクをおかわりしたいけど、このタイミングでドリンク購入に向かうのは、何か違うでしょ。

すると夏野君は真っ赤な顔のまま、夏野君自身のドリンクの中身を確認し、続いて私のドリンクの中身を確認し、財布を持って立ち上がった。





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