中学一年の春、昼休みの学校の廊下で、初めて彼女を目にした。


髪が短く、色の白い、静かな目つきの娘だった。


窓際に立って外を眺めている彼女を見て、おれは息を呑んだ。


彼女の体も、おれと同じ膜に包まれていたんだ。


頭が真っ白になった。


まさか、自分以外にも、膜に包まれた人間がいただなんて、思いもよらなかった。


話しかけねえとって思った。なんか声かけねえとって思った。でも、言葉が浮かばない。五歳の頃からずっと人に嫌われつづけて、会話なんてものとは、ほとんど無縁の生活を送っていた。話し方ってものを、忘れてしまっていた。


彼女も膜に包まれていたが、おれは彼女に対して嫌悪感を感じなかった。


どうやら、膜に包まれた者同士では、嫌悪感を感じないらしい。


結局うまい言葉が浮かばなかったおれは、相手に先に気づいてもらおうと思い、ゆっくりと彼女の背後に歩み寄った。