でもそんな日々は、長くは続かなかった。
分かっていた。
彼女の病気は、そんなに甘いものではない。

ある日、一緒に帰っていた沙耶の足取りがゆっくりになり、そして、止まった。

「伊藤、どうした?」

「ん……。」

彼女は必死で何かを堪えているようだった。
きっと、それまでもそうだったのだろう。
僕が気付かなかっただけで。
いや、気付かないふりをしていただけで。

病魔は彼女を確実に蝕んでいた。

彼女の肉体を、精神を、徐々にぼろぼろにしていった。


「大丈夫?」

「……うん。」

「ちょっと休もうか。」


落ち着いているように振舞いながら、僕は実際、どうしたらいいか分からなかった。
苦しそうな君が、何に耐えているのかさえ分からないまま。
背中をさすっても、君が本当に痛い場所には届かない気がして。


「もう、……大丈夫だよ。ごめんね!春岡くん。」


大丈夫ではなさそうな彼女は、わざと明るい声で言う。
僕は、そんな君の声に、胸を締め付けられる。
でも、そんな君の健気な気持ちに応えたくて、僕も一生懸命に笑っていたね。

「そっか。大丈夫か。……じゃあ、行こう。」

「うん。」

折れそうに細い君の手を握る。
君はどんどん小さくなる。
きっと、食欲なんてないんだろう。

最近、君の手を握ると、火のように熱いことがある。
我慢しているけれど、君はきっと毎日、僕には計り知れない壮絶な世界を生きていたんだね。


そんな日が続いて、ある日君はぱたりと学校に来なくなった。
僕には一言も弱音を吐かないまま。

この時、僕は気付くべきだったんだ。
僕は君を、苦しめる存在であることを。
愛し合えば愛し合うほど、君と僕とは離れていく。
そのことに、気付くべきだった。

今さら何を言っても遅いけれど。
僕は、ただひたすらに君を愛する以外の方法で、君をこの世に留めておく手段を知らなかったんだ。