初戦は優勢だった。
失点を0点に抑えたまま、先輩が放ったヒットで2点をリードしていた。

9回表。

ここを抑えれば、僕たちの勝利が決まる。
ただ、満塁ホームランでも打たれてしまえば逆転される可能性もある。

差はたった2点だ。


僕の売りはストレートだけれど、僕にはそれしかない。
どこに投げるかなんて簡単に読まれてしまう。

それでも打たせないためには、常にパワーのある投球をしなくてはならなかった。

ここに来て、正直疲れが出ていた。
しかし、こんなところで気を抜くわけにはいかない。

僕は唇をかみしめた。


力を込めてストレートを放つ。

ストライクをひとつ奪う。


キャッチャーの指示どうりに、今度は内側めがけて。

打者はバットを振るも、空振りに終わる。


球場が静かになったのが分かった。

皆が、かたずをのんで僕の右手の中の白球を見つめる。

最後はど真ん中へ。

全身全霊を振り絞って投げる。


バッターがバットを振る。

祈るように僕はミットを構える。


カキン――


いい音がした。

打ち上げられた球を、僕は必死で追う。


フェンスを越えるかと思った球は、その直前で落ちた。

そして、僕の左手に、しっかりと収まっていた。


割れんばかりの歓声に、僕はやっと実感がわいた。
初めての高校野球で、僕はチームに貢献することができたようだ。

走って整列し、帽子を取る。

「ありがとうございました!!」

みんなで声を合わせると、少しばかり泣きそうになった。

君の言った通りだ。

僕はちっとも、クールなんかじゃない。

「春岡!!よくやった!」

「春岡くんー!かっこいい!!!」

口々にかけられる言葉も、本当は嬉しくて。
でも、何だか照れ臭かったから、いつも通りの不愛想な僕として振舞うことしかできなかったのだけれど。

でも僕は、無意識のうちに探していたんだ。

そう、君の姿を。

全校応援だから、マネージャーとしてではなくても君はどこかにいるはずだった。
僕の雄姿を見守ってくれていたはずなんだ。

それなのに、肝心の君は結局最後まで姿を現してくれなかったね。

それがほんの少し、心残りだった。