何一つ忘れたことないのに。




初めて一緒に寮まで帰った日の思い出も。


体育祭の時、リボンとネクタイを交換したことも。


ロルフやパトリシアと一緒に街へ出かけたことも。


そのとき、イチゴのタルトを嬉々として食べていたことも。


苦手なラテン語を根気よく教えてくれたことも。


ダンスパーティーの時は、目の覚めるような青のドレスがびっくりするほど似合ってた。


初めて手を繋いだ夕暮れのことも。


不器用なキスの感触も。


バーナードの髪を切る悪ふざけには、先生より厳しく怒ってきたっけ。


ミシェルやロバート、アレックスと仲良くしてた秋には、ずっと嫉妬してたんだぜ。


テニスの試合のたびに、新聞部の記事にしてくれた。


ピアノやヴァイオリンも達者だった。


ラテン語は学年の誰より得意で。


どんな国の言葉でも、気負いなくしゃべれて。


テストの点なんて、抜群だった。



優しくて。


暖かくて。


誰からも愛されて。





心の底から、憧れていた。

大好きだった。



どこが好きだとか。

いつ好きになったとか。




一度も忘れたことないはずなのに・・・








どうすればいい・・・?


どんどん、記憶が遠のいていくんだ・・・