だけど、あぁ・・・



やっぱりたくさんたくさん刻まれているのは、あなたの思い出なのね。

アレン。


泣いたり、

怒ったり、

からかったり、

沈んだり、

すねたり、

嫉妬したり、




でも、何よりたくさんの笑顔をくれた。






何一つ忘れてはいないわ。



キスするときの右側に顔を傾ける仕草も。

甘いものが苦手なことも。

そう、いつもコーヒーはブラックだった。




ショパンが好きで。

女っぽい趣味かな、と苦笑していたっけ。

私を気遣うように、クララ・シューマンのレコードを買っていたこともあった。



ケンカしたとき謝るのは、いつも私から。

私に原因があるときも、そうじゃないときも。

そういうところは頑固だったわ。

一度決めた意志は、絶対に曲げない。

そんなアレンを見れて、ちょっと嬉しかった。



朝のテニスの練習は、いつだって8時の鐘が鳴るまで。

ぎりぎりまで練習して、ヘンリー先生に怒られることも少なくなかったっけ。



テニスラケットを片手でくるくる回しながら、歩く姿は、ちょっと子供っぽかった。



先生たちの評価は、一貫して『真面目』。

勉強もコツコツこなして、テニスにも懸命に打ち込む、心優しい、いい生徒だと。

そんなお堅い恋人なんておもしろくないでしょ?と、誰かが言っていた。

そんなことないわ。

一瞬たりとて、そんなこと思わなかったわ。

いつだって、誇らしい大好きな恋人だった。





アレン・・・



ありがとう。



私、幸せだった。








これが最後なのね・・・



これで、全て終わりなのね・・・





みんな、大好きよ・・・

どうか元気で・・・

さよなら・・・







私は、意識が遠のいていくのを感じた。

ずっとずっと、遙かな遠いところへ・・・



私は消えていった。