「それにしても、凛は遅いね」


父さんが時計を見ながら言った。


「女子トイレは混雑するのよ。

仕方ないわ」


外は冷え込むな。


凛の身体が心配だし、早く帰った方が良さそうだけど。


「あ、戻って来たわ」


母さんの言葉にパッと顔を上げると、トイレから出て来る凛の姿が見えた。


「ねぇ、保。

凛、顔色が悪くない?」


「え……?」


凛の母親の言う通りで、凛はなぜかひどく不安そうな顔をしている。


俺は慌てて凛のところへと駆け寄った。


「凛、どうした?

気分が悪いのか?」


そう言った直後、凛が倒れるように俺にもたれかかって来た。


「凛?」


凛はブルブルと小刻みに震えている。


「寒いのか? 大丈夫?」


凛の背中に手を回して、さすってやる。


「どうしよう、たもっちゃん……。


お腹がすごく痛いの……。


出血してて……」


「えぇっ?」


「お願い、たもっちゃん。


赤ちゃんを……。


助けて……」


そう言って凛は、俺の腕の中で意識を手放した。



「凛!


しっかりしろ!



凛!!!」