四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

夏目のお弁当を作る手が、止まりかける。

私が今やっていることは、裏切り行為なんだと分かっている。

でも、あの準備室に、温かい夏目のもとに帰りたかった。


「なつ、行ってくるね。」


いつものようになつに声をかけて家を出る。

なつはもう、立派なおんどりに成長していた。


「詩織おはようっ!」

「あ、智!」

「ねぇ、詩織ってもしかして、付き合ってる人いる?」

「え?」


頭の中が一瞬、真っ白になる。


「土曜日、図書館で詩織が男の子と一緒にいるとこ見たからさ。」

「あ……。」

「ね、そうでしょ?」

「いや、」

「めっちゃめちゃカッコいい人じゃん!!詩織やるぅ。」


その後に智が言った言葉で、私は凍りついた。


「私その日に図書館で、夏目先生とも会ったんだ!」

「……うそ。」

「ほんとだよ!私が図書館に入るとき、ちょうど夏目先生が出てくるところで。でもなんか先生急いでたみたい
で、手を振ったのに全然気付いてくれなかったの。」

「夏目先生、見たかな……。」

「気付いてないと思うよ。だって私が詩織見たとき、二人ともあんまり近くにいなかったもん。」

「そっか。」


そう言いながら、私の胸を嫌な予感が掠めた。

まさか。

そんなことは。


「どうしたの?詩織。」


智が不思議そうに私を見た。


私は何も答えられずに、ただ先に潜む暗い闇を、じっと見つめていたんだ……。