「先生、金曜日、ごめんね。」

「ああ……。」


夏目は苦笑いしながら言った。


「最悪のタイミングだったな。だから言っただろ、まずいって。」

「そうだね。ごめんなさい。もうわがまま言わないように努力する。」

「わがまま言わないって、言い切れないんだな?」


そう言って、夏目は耐えかねたように笑い出した。

私はそんな様子の夏目に安心した。


「俺、完全に怪しいやつだと思われたなー。」

「お父さん、思い込みが激しいみたいで。」

「今まで一緒じゃなかった分を、取り返したいんだよ、お父さんは。この分じゃ、小倉はお嫁にいけないなぁ。」

「そんなぁ。困るよ!私先生の、」


またいいところでノックの音。

この部屋に来る人なんて、限られている。


「はい。」


夏目の顔がよそ行きになる。


「夏目先生、五校時の実験ですけど……あ、生徒がいるとちょっと。悪いけど小倉さん、外してもらえる?」

「……。」

「ああ、じゃあ小倉、ありがとな。」

「……。」


仕方なく扉を開けて出ていく。

仕事を持ち出すのはずるい。

反則だ。

イエローカード一枚。


――私先生のお嫁さんになるのに。


行き場を失った言葉が、胸につかえて苦しかった。

夏目にはバカって言って笑い飛ばされると思う。

それでもよかったのに。


篠原さんと私の、静かな闘いに、先生は気付いていなかったんだね。

気付いていれば、あんなに悲しいことにはならなかったかもしれないのに―――