夏目の足音が聞こえなくなる最後まで、耳を澄ませた。

なんだかみじめな気分だった。


「詩織。」

「……。」

「聞いてるのか、詩織。」

「うん。」

「夕飯、作ってくれないか?お父さん、お腹がぺこぺこなんだ。」

「うん。」

「何でもいいよ。詩織の作ったものなら、なんでも。」

「うん。」


うなずいたら、涙がこぼれそうになった。


「詩織は、あんな男にだまされちゃいけないよ。」

「……。」

「あの男は、詩織のことを愛してなどいない。お父さんには分かるんだ。」


早瀬の言葉が滑稽に響いた。

私は、思わず言った。


「そんなこと、知ってるよ。」

「え?」

「知ってる。」

「それなら話は早い。すぐに離れるんだ。そうでなければ、お父さんにも考えがある。」


気になったが黙っていた。

早瀬はその気になれば何をしてもおかしくない。

正直私は、実の父親が怖かったのだ。


その予感が正しかったことを、、私はすぐに思い知らされることになる。