「嬉しいな。」

「何が。」

「ううん。」


人がご飯を食べている姿は好きだ。

無防備で、少しだけ野生の一面が垣間見えて。
人間の本能みたいなものが、この人にもちゃんと備わっているんだと分かる。


夏目と私は、今、おんなじものを食べている。
おんなじ空気を吸って、おんなじ温度の中で生きている。

おんなじ気持ちにはなれなくても、二人には通じ合うものがある。


「先生。」

「ん?」

「おいしい?」

「ああ。おいしいよ。」

「そう。」

「小倉は……。」

「ん?」

「小倉は今、お父さんと一緒なのか。」

「ううん、お父さんは東京に行っちゃった。」

「え?じゃあ、一人で?」

「うん。」

「寂しくないのか。」

「ぜーんぜん。だって……」


――先生がいるんだもん。


「だって?」

「だって、なつがいるから。」

「なつ?」

「あ!!」


私は真っ赤になった。

思わず口が滑ってしまった。


「ううん、夏だからって言おうとしたの。」

「もう夏も終わりだけど?」

「そ、そうだね。寂しいな~」

「寂しいか。」


夏目は優しい顔で微笑んだ。

私は夏目を責めたくなる。

そう言う顔するから、たまに優しくするから、私はあなたのことを忘れようと思っても忘れられない。

夏目を頼ってしまう。

大事だと思ってしまう。


「先生も、寂しそうだね。」

「俺が?」

「うん。」

「そんなことないよ。」

「そう。」


夏目の切ない表情を思い出す。

嘘だよ、先生。

だって、先生はあんな顔するじゃない。


寂しい、というのとはまた違うのかもしれない、と私は思った―――