「ねえ詩織、」

「んー?」

「今度詩織んち行っていい?」

「えっっ・・・」


とっさに言葉が出なかった。いつもみたいにやんわり断ればよかった。




智たちは、たまに友達同士の家に行って遊ぶ。

お互いの部屋を見せ合ったり、お気に入りの小物を自慢したり。

だけど、今まで私は、一度も友達を家に呼んだことがなかった。

だから、智たちも期待していたんだと思う。

いつか、私の家に行きたいって。



断ればよかったのに―――



私はタイミングを逃してしまった。



「いいよね、花梨と涼ちゃんも。」

「あ、…うん。」


いいってー!と智は大声で言った。

もう、引っ込みがつかなかった。


「いいよー。今週末?」

「ううん。明日。」

「明日!」


週末は叔父と叔母と従妹が外出する予定があった。


でも明日は……


「決定!」


仕方がない。

本当は家に友達を呼ぶなんて、してはいけないことなのに。

叔母の不機嫌な顔が目に浮かんだ。


「詩織んちって広い?」

「あれ、もしかしてお母さん専業主婦?」


一言一言が胸に刺さった。


分かってる。

彼女たちに悪気はないのは分かってる。



でも―――



「やめて。」

「えっ、今なんて言った、詩織。」

「何でもない。」


私は取り繕うように笑った。


智は、ほんとに聞こえてなかったみたいで、ん?と笑い返して首をかしげた。