私は夏休みが嫌いだ。

学校は自分を演じていれば何とかなった。

でも家では、演じても無駄なことは分かっていた。


それに今年は、夏目に会えない、そう思うだけで嫌になった。


「これから夏休みの予定表を配る。大まかな予定を記入して、提出してください。」


「夏休みだー!遊べるの高2の夏休みが最後なんだから、いっぱいあそぼー!」
「あたし、家族旅行で北海道行くんだっ!」
「いいなぁ、私は沖縄!」
「沖縄なんて修学旅行で行くじゃん!」
「だって仕方ないじゃん。お父さんがどうしてもって言うから!」


みんなが一斉に話し出す中、私はぼーっと用紙を見つめていた。

部活もなければ、遊びに行こうとも思わない。

私にとっての夏休みは、早く終わってほしいだけの休みだ。


「小倉、」


気付くと夏目が覗き込んでいた。


「寂しい夏休みだな。」

「悪かったですね。」

「生物の補習でもやってやろうか?」

「ほんと?」

「夏目先生、私も!なんで詩織ばっかり、ひどいよー!」


いきなり智が割り込んできて、夏目は面食らった顔をした。


「冗談で言っただけだ。本気にするな。おまえら、補習なんか必要ないし。」


夏目は背を向けて去って行ってしまった。


「あーあ。夏目先生に会えない夏休みなんてなくなっちゃえばいいのに。」


ほんとだよね、と言おうとして我に返った。

そんなこと言ったらまずい。


「夏休み、楽しいじゃん!」

「まあね。」


浮かない顔の智は私と同じことを考えている。

気が合うのか合わないのか。


ライバルは一途なところでは、私と互角だ。