私には誰にも言えない秘密がある――






何千回、何万回謝っても帰ってこない人の前で、私は再び膝をついた。




「ごめんね・・・。」




絞り出すような声はきっとまだ届いていない。


届くはずないんだって、私は知っている。


だって、届かないところに、あなたは行ってしまったから―――




あの日に帰れるのなら。


私は、あんなことしない。


大人しく、いい子でいるから。


だから、あの日に帰らせてよ、神様。




「ごめんなさい。」




母はきっと知っていると思う。

あの日、私の心に潜んでいた悪魔を。

誰にも言えない私の罪を。




もし、大切な人ができても、私は口を閉ざすだろう。

すべてを受け入れてほしいと強く望んでも、その願いは叶わないだろう。

その人が、大切な人であればあるほど。




こうして月に一回、母の命日が来ると一人でお墓参りに来るようになって三年が経つ。

いまだに同居している叔母夫婦には知られていない。


一人で来るのは限りなく寂しいけれど、誰かと一緒に来ることはできない。


私の目的は、母の冥福を祈るなんていう美しいことではないから。





私がこの暗い影を誰にも知られないために、自分を演じることにしたのは中学二年生のときだった。


中二の春に母を亡くすまでの私は、とても活発でクラスを引っ張る存在だった。

だからかもしれない。

自分の変化を、誰にも悟られたくなかった。

悟られるのが怖かった。


知られるはずないのに。

私の心に潜んでいる悪魔のことなんて。


心にもないことを言い、ちっとも楽しくないのにはしゃいだ。

泣きたいのに笑って、笑って、笑って、・・・。

「詩織ってほんと明るいよね」とか「何も悩みがなさそうでいいな」とか言われ続けた。




そして、地元の高校に進学した私は、同じ存在であり続けなければならなかった。

「詩織って明るい」「詩織ってきれい」・・・そう、いつしか私は意図せず皆の憧れの存在と成り果てたんだ。



でも私はいつも胸の奥に、皆を欺いているという気持ちがあった。


誰一人として本当の私を知っている人がいないというのは、誰一人として心の通じ合う人がいないのと同じことだと、心のどこかで私は気付いてしまったから。