「詩織、おいで。」


夏目は布団に入って、掛布団をめくってみせた。

そんなこと……。

心臓が早鐘を打ち始める。

でも私は、言われるままにそこにもぐり込んだんだ。


温かくて、夏目の香りがした。


「まず、今日聞いたこと、」

「なんで言わなかったのか、でしょ。」

「そう。」

「それは……。」


夏目が温もりを感じられる距離で、私を見つめている。
なんだか現実味が無かった。


「それは、先生が好きだからだよ。」

「それで?」

「それで……。」


簡単な言葉では逃してくれない、夏目の真剣なまなざしが私を追い詰めていく。


「先生には、いつも笑顔でいてほしかったから。……先生が幸せなら、私も幸せだから。だから、ほんとのこと言わなくてもいいと思った。先生が篠原さんのことを、本気で愛しているなら、それで。」

「詩織が辛い思いをしているのに?」


夏目は、悲しそうな顔で言った。


「気付いてやれなくて、ごめんな。」


夏目の声が震えている。
私はそっと、彼の肩に触れた。


「私もごめんなさい。黙ってるべきじゃなかった。」

「いや、俺だって、気付いていたんだ。それを、気付かないふりをしていた。……実はね、篠原さんがうちに出入りしていた時、俺が仕事場所にしている机を、掃除したがってね。必要なものが捨てられていたりすることが、よくあったんだ。……解答用紙がどこにあるかなんて、何度かしかうちに来てない君が分かるはずなかったのに―――」


こういうことなのか、と思った。

夏目は本心を打ち明けてくれたんだ。

私も、それに倣わなければならないのだ。


枕元の明かりが揺れる。
それと同時に、私の心も揺れる。


さあ、どこまで話そうか。



どこまで……嫌われようか―――――