その日はそのまま宿舎に向かう。

泊まる部屋は6人部屋。

智だけではなくて、少し良かったと思う。

もしも智と二人なら、きっと一言も話さないだろう。
そんなこと、耐えられないから。


私と智の雰囲気を感じ取ってか、部屋のみんなも比較的静かだった。

夜更かしもしないで、先生が巡回してきたときには、先生の方が拍子抜けしていた。

でも私は眠れずに、布団の中で目を閉じていた。


智には申し訳ないことをしたと、心から思っている。

でも、夏目を好きだと思う気持ちは、どうしても抑えられない。

今までの思いをすべて、無かったことにすることなんて、できない。


篠原さんの意地悪な笑みが、瞼に焼き付いて離れなかった。


夏目が好きな人と幸せになることに異論はない。
でも、篠原さんは夏目を幸せにすることはできないと思う。

篠原さんはこれからも、自分の大切なもののために、周りを壊し続けるだろう。
そして、夏目のことも、いずれ傷つけるんだろう。

取り返しのつかない大きな傷をつけて。


だから、守ってあげなきゃいけない。

篠原さんから、夏目を守ってあげなくては。



私は決意した。



あの水族館の中の消えそうな後姿の夏目を、必ず取り戻してみせると。

私と正面から向き合おうとしてくれた、智のように。



もう逃げるのは終わりにしよう――