「ねえ、詩織。」


智がなにか言いたそうに私の元に来た。

分かってる。

智が私に訴えたいことが何かなんて。


でも、でも。


ここまで来ても私は何も言えない。

ほんとは私も夏目先生のことが好きだと。

篠原さんなんかに渡さない、と。

言えなかった。


智は口を開きかけて、やめた。


当たり障りのない会話が、二人の上を流れていく。


もう取り返しはつかない。