夏目に呼ばれて職員室に行く。

私は前の私に戻ることにした。
どんなに悲しくても、何も感じない鉄骨の心で。


職員室に入って、無言で夏目の斜め後ろに立った。

気配を感じて、夏目が振り返る。


「ああ、小倉。」


夏目は視線を落とした。


「話って言うのは、この間のことなんだが。」

「……。」

「あの鍵は……いや、俺の部屋のなんだね。確認したんだった。」

「……。」

「お前、どういうつもりで……。もしかして篠原さんと俺が、」

「聞いてくれないです。先生は。私が何を言っても、信じない。」

「どうしてそんな、」

「分かるんです。」


私は泣きそうになって、夏目に背を向けた。


「小倉、」

「いいの。私は悪者でいいの。でも先生も、幸せになれないよ。ほんとのことに背を向けてばっかりじゃ、幸せになれないよ。」


走って職員室を出る。

こんなこと言うつもりじゃなかった。

後悔の波が私を襲う。


でも、夏目が篠原さんの名前を出した瞬間、私の理性はどこかに行ってしまったのだ。

大好きなはずの夏目が、大好きだからこそ憎らしくて。

どうしようもなく憎らしくて。



でもどこかで、やっぱり好きだから、



篠原さんから守りたくて。