プリントが返される一瞬だけ、夏目に近づくことができる。


「小倉。」


夏目はどこか遠慮がちな声で私の名前を呼ぶのだけれど。


席を立って教卓の前まで進む。

夏目と一瞬だけ目が合って、すぐに逸らされる。

プリントを受け取る手が、震える。


たったそれだけだった。


一緒に同じご飯を食べることも、笑いあうことも、もうない。

夏目は篠原さんの側へ行ってしまった。


でもひとつだけ、ひとつだけ私がすがりたいことがある。


夏目はほかの生徒には今まで通りなのに、私には冷たい。

そんなことが嬉しいわけないけれど、でも。



夏目の気持ちが分からない。

分からないときの夏目は怖い。



前と同じように扱ってほしいとは言わないから、せめて、他の生徒と同じように扱ってほしい。

そうすれば期待しないから。

もう、あなたのことをあきらめるから。