どれくらい経ったんだろう。

「これにします。」

「赤…ですね。」

店員さんは少し哀しそうな顔を見せた。

「赤、と言うことは、あなたは誰かに何か、伝えたい想いがあるんですか?」

「………。」

ズバリ。
…そうだった。

私は伝えたい相手を思い出したくて、伝えたくて、ここに来た。

誰なのかは解らない。
記憶がそこだけ抜け落ちている。

だけど。

大切な人が居た。
私の幸せを願ってくれる人が居た。
その人に今、幸せだと、伝えたかった。

何も応えない私に店員さんはまた寂しそうな顔を見せた。

気のせいかもしれない。
…ほんの一瞬だけ、そう思った。

「大切な人がいらしゃるようなので、お作りします。」

店員さんは笑顔で瓶を用意し、棚から葡萄を入れた。
葡萄は瓶の中でクルクルと回り、売っているようなワインの色になった。