私はなんだか脱力して、思わず呆れたような表情になってしまう。



「……南先生、私が言うのもアレですけど、校内禁煙のはずですよ」

「うっせーよ。どこぞのお局教頭ババアみたいなこと言ってんなよ」

「ババアって……」



何このひと。小学生か。

心中でこっそりそんなことを思っていると、南先生がふーっと長く、白い煙を吐いた。



「……まあ、おまえの気持ちはわからんでもねぇよ。俺も穂積くらいの歳の頃、同じようなことで悩んでた時期があったからな」

「え……」



街の景色に視線を向けかけていた私は、突然のその言葉に、思わず目を見開きながら先生を振り返る。

南先生はどこかぼんやりと、空を見上げていた。



「俺の親ってーのが、ふたりともお堅い教師でさ。典型的な教育熱心タイプだったんだよ」

「………」

「世間体ばっかり、気にしてるような人たちでさ。門限とかも超厳しいし、勉強ばっかでろくに遊んだりとかもできねーの」



言いながらははっと先生は笑ってみせるけど、今の先生からは、とても想像ができない過去だ。

黙ってその横顔を見つめていると、やわらかい風が、先生の黒髪とブルーのネクタイを揺らした。