*真衣side*
旅立った?
桜庭くんが?
頭が軽いパニックを起こす。
「それって、どういうことですか」
涼介が焦ったように聞く。
「そのままの意味よ?昨日ね。本当に急だったわ」
「えっ…。じゃあいま、瞬はどこに?」
涼介のいう「瞬」というのは、きっともうこの世に存在するものではない。
「お父さんがアメリカにいるらしくて、それでそっちに」
そこで看護師さんのナースコールがなり、受付が他の人に変わる。
桜庭くんが、この世から
いなくなった…?
動けないあたしを涼介が支えて、病院のそとに出る。
近くにあったベンチに腰かける。
「真衣、大丈夫か…?」
涼介の手があたしの頭に触れた瞬間、涙が込み上げてきた。
「うっ…なんで、なんで…」
もうどこにも行かないって言ったのに。
死なせない、って決めたのに。
どうして
「なにもしてやれなくて、ごめんな」
あの日の体育祭のように、優しく抱き締めてくれた。
その瞬間、また涙がこぼれだす。
桜庭くんは、もうこの世にはいない。
こうやって抱き締めてくれることも
手を繋ぐこともできない。
…もう、いないんだ。