「はい、おはようございます檸檬(れもん)お嬢様」

先程までの怒声とは裏腹に穏やかな声で告げる相手に少女は不機嫌そうに

「……おはよ・・・林檎(りんご)」

ふん、と鼻を鳴らし顔を背ける。すると含み笑うように林檎の肩が揺れた。

「それでは、お料理をお持ち致しますね」

そう言って奥へと行ってしまう林檎。
ひとり残された檸檬は小さく溜め息を吐き天井を見上げた。


林檎は檸檬が幼い頃から仕えてくれている執事だ。今は亡き両親よりも一緒にいる時間は長く、また両親が忙しい時はずっと遊んでくれていた、家族同然の存在。


「……」

そんな彼女に檸檬は特別な思いを抱いていた。

(……でも、この気持ちが「恋」かと言われたら違う気がするし……)

どちらかというと姉を慕う妹のような感じだ。

「はぁ・・・」

再び溜め息を吐き執事の消えた方を見遣る。パンを焼いているのだろう、香ばしい匂いのするそこから鼻歌交じりに作業する林檎が見えた。

「また寝ないで下さいねお嬢様! これ焼いたらすぐ出しますから!」

此方の気を知ってか知らずか、鼻歌を歌っていた執事は楽し気に言った。