自分の取った行動を思い返して檸檬は戸惑った。

目の前には片頬を押さえて驚いたように目を見開く執事がいる。執事もまたなにが起こったのかわからない、という風に狼狽えていた。

「……ざけないで・・・」

「え・・・?」

「・・・ふざけないでって言ってるのっ……!!」

叫ぶと今まで何処にそんなスペースがあったのかと思うぐらいの言葉が、水のように口を突いた。

「この屋敷にいられないなんて、私の前からいなくなるなんて、そんな、そんなの……お父様が許しても私が許さないわ・・・っ!!」

瞳からは大粒の涙が溢れ頬を叩いた手がじんじんと痛む。

しかし、檸檬は言葉を止めなかった。
今言葉を止めたら執事が出て行ってしまうように感じて、そうしたらもう一生会えなくなる気がして、そう思うだけで胸の奥が苦しくなるのを、少女ははっきりと感じた。

「…………私の、私の前からいなくなるなんて……そんなの、身勝手だわ・・・っ」

嗚咽を堪えて告げた言葉は温かい感触に包まれ、瞳から溢れる涙は執事の胸の中に吸収された。