全てはあの日からだった。ロッドが生死の境をさ迷ったあの日―

脳にまで達したあの癌は、脳の中でゆっくりと活動をしていた。少しずつロッドの細胞を侵食し、その存在を膨らませていた。その結果として、脳障害―すなわち子供のときへの後退現象が現れた。
このまま癌の増殖が進めば、状態は悪化し、最悪の場合にはロッドは死ぬ。





影澤はロッドの現状を話し終えると、座ってた椅子に深く腰掛け直した。

静かな部屋に、開け放した窓から、冷たい空気がすり抜けて入ってきた。
空には群青に飲まれそうな紅い夕焼けが、今日を終えようと沈みかけていた。
世界の終りのような焼けた色が、目の奥に焼けついた。