四月。
新学期が始まった春。
彼女は桜舞う渡り廊下の真ん中に、立っていた。
ただ、何をするわけでもなく。
青と白の中に浮かぶ桃色を見上げて。
ざわり、と揺れる。
桜が、彼女の髪が。
チェックの学校指定のスカートが。
揺れて、揺られて。
彼女のその黒い瞳は何を見つめているのだろうか。
そこいらを漂う桜?
それとも、何も見つめていないのか。
桜が舞う。
風に吹かれながら、自分の存在を主張するかのように。
ふと、響いたのは足音。
渡り廊下を歩く、革靴の軽快な音。
振り向くとそこに、先ほどは居なかった男が居た。
淡い光に揺られて、その黒の髪は時折栗色の色彩を放つ。
切れ長の瞳は銀色のフレームの眼鏡の奥で。
紺色のスーツに身を包んだ身体。
少し青味がかったワイシャツは、気だるげに第二ボタンまで外されている。
藍色の中に銀色がシンプルに生かされているネクタイもかなり緩められていた。
瞬間。その男とすれ違うその一瞬、時が止まったかのような錯覚を起こした。
香る柑橘の香。
細められた瞳。
心が、胸が、締め付けられる。
――桜が、二人の間を舞った。
それが、彼女が覚えている彼を初めて見たときの記憶。
新学期が始まった春。
彼女は桜舞う渡り廊下の真ん中に、立っていた。
ただ、何をするわけでもなく。
青と白の中に浮かぶ桃色を見上げて。
ざわり、と揺れる。
桜が、彼女の髪が。
チェックの学校指定のスカートが。
揺れて、揺られて。
彼女のその黒い瞳は何を見つめているのだろうか。
そこいらを漂う桜?
それとも、何も見つめていないのか。
桜が舞う。
風に吹かれながら、自分の存在を主張するかのように。
ふと、響いたのは足音。
渡り廊下を歩く、革靴の軽快な音。
振り向くとそこに、先ほどは居なかった男が居た。
淡い光に揺られて、その黒の髪は時折栗色の色彩を放つ。
切れ長の瞳は銀色のフレームの眼鏡の奥で。
紺色のスーツに身を包んだ身体。
少し青味がかったワイシャツは、気だるげに第二ボタンまで外されている。
藍色の中に銀色がシンプルに生かされているネクタイもかなり緩められていた。
瞬間。その男とすれ違うその一瞬、時が止まったかのような錯覚を起こした。
香る柑橘の香。
細められた瞳。
心が、胸が、締め付けられる。
――桜が、二人の間を舞った。
それが、彼女が覚えている彼を初めて見たときの記憶。