やめてぇぇぇ……



 耳の奥に聞こえる声にせかされて、俺は、顔を上げた。

「……残月……?」

「ああ。
 すまない。
 もう出かけなくては……」

 この声もまた。

 本当は、偽りの心が聞かせる幻聴でしかないと思っていた。

 だから。

 今まで、何度も聞こえていた声を無視していたんだ。

 しかし。

 俺は、行かねばならなかった。

 名前をはっきり呼ばれたからには……俺を頼りにしてがいるのならば。

 気に食わない相手に抱かれる事が、女にとってそんなに苦痛であるのならば。

 この時代で、ただ一人。

 孤独を癒してくれるかもしれない女が、俺を呼ぶのならば……!

 俺は、高層マンションの屋上のバルコニーから、外にでた。

 足元には、人間の造った町並みが、ネオンの光となって煌めき。

 夜空には、月が。

 紅い月が、出ていた。

 見送りに出て来た花連に手を振って、俺は、フェンスを乗り越えると、そのまま、ネオンの海に飛び降りた。

 薄汚い都会の空気も。

 こうやって、風きる時だけは、気持ちいい。



 きゃぁぁぁぁ……残月……!



 ……!



 地面に激突寸前。

 俺は、黒い皮膜の翼を開いて、急上昇した。

 ……凛花。

 今日こそは。

 今夜こそは、迎えに行ってやるから。