Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

 恩ぎせがましく、何か要求する気は一切なかった。

 が。

 女の言い草に自然と眉が寄った。

「……助けは必要なかったか?」

 俺が言うと、女はきゃんきゃんと野良犬みたいに、噛み付いて来た。

「ああ、いらないね!
 ヒトの商売の邪魔をしやがって!
 五日ぶりの客だったっっうに!
 みろ!
 アンタが追い払っっちまったから、逃げたじゃないか!
 せっかくの、飯の種をどうしてくれるんだよ!!」

「……しかし、お前は嫌がって……!」

「演出だよ。
 演出。
 男ってぇ、ヤツは、拒否されると燃えるんだってよ!」

 女は、俺を恐れることなくにらみつけて言った。

 一方で。

 俺は。

 俺の目の中を覗き込んでくる、女の視線を避けるように目を伏せた。

 ……別に、女が、怖かったわけでも、その妙な迫力に気圧されたわけでもない。

 ヘタに視線をあわせると、魅了が自動的にかかってしまうから。

 不用意に魅了をかけて、面倒を起こしたくなかった……のだが。

 そんなことは露にも知らない女は、俺を気弱と勘違いして、傘にかかって怒鳴った。

「それに……なんだいアンタは!
 ヒトの商売を邪魔した挙句、工藤誠一郎だなんて名乗りやがって!
 銀杏荘の工藤は。
 アタシの兄さんは、アンタとは全く違う風体をしてんだからね!」