死臭漂う南方の島から。

 ジジイと共に、命からがら逃げだしてくれば。

 日本の街は、瓦礫の山と化していた。

 敗戦、直前。

 爆弾を抱えた敵の飛行機が、街と人とを焼きつくし。

 それから、数ヶ月では、立ち直る事は不可能だったのだ。

 夕方の、陽が作る長い影を持ってしても。

 かつて、建っていた建物より大きな物を、表すことはできない。

 闇市という。

 非合法な。

 しかし。

 人が生きていく為には必要不可欠な、生活必需品を売り買いする市かあった。

 地面に直接敷物を敷いただけの、露店が並ぶ、みすぼらしい市場だ。

 その喧騒を間近に聞く工藤の家も、また。



 例外ではなかった。