「……だから、どうした?」

 俺の声に、工藤は、真剣な顔をした。

「残月に、僕の名前と……血を全部あげる。
 だから……
 あなたは……日本に帰ってくれないか?」

「貴様。
 たかが、二等兵のくせに……
 軍曹の俺に、敵前逃亡を促すのか?
 そんな、ボロいカラダをしてなかったら、拳で性根を叩き直している所だ」

 工藤は、ふふふと力なく笑う。

「『山田軍曹』だったら、問答無用で殴る話だよね?
 非国民、とか言いながら。
 だけど……
『残月』だったらどうする?
『護り』の為に生まれた吸血鬼、残月ならば?」

「……」

「あなたは、はぐれてしまった自分の主(あるじ)を探しているんでしょう?
 こんな所で。
 こんな、日本から遠く離れた南の島で。
 人間同士の莫迦な争いに関わっている場合ではないハズだよ」

「……工藤」

「もちろん、ただ帰すわけじゃない。
 日本に帰って、早苗を……僕の妹を護って欲しいんだ。
 残月の主が見つかるまでの間だけでもいいから。
 もう、帰れない僕の代わりに。
 僕の他に身よりの無い早苗を見守って欲しいんだ」