風が吹く。

 海から吹く強い夜風が。

 昼間、俺達が必死になって掘った塹壕を走り抜け。

 まるで。

 女の悲鳴のような不吉な音を、鳴らしては消えてゆく。

 風は。

 吹き抜けてゆくたびに、異臭をあちこちに撒き散らして行った。

 木が焦げる臭いを。

 硝煙たなびく、火薬の臭いを。

 そして、この地に嫌と言うほど流れた。




 血と汗と……






 ………ゆっくりと腐りゆく、死者達の臭いを。




 ……ここには、無数の『死』があった。

 激しい死闘の果てには、敗者も勝者もなく。

 ただ。

 少し前までは「兵士」だったモノが折り重なり。

 紅い月の下で屍をさらしていた。



 ああ。

 しかし、この無残な光景は。


 昭和、と呼ばれた時代が20年ほどたった頃の南方の島々では。

 ありふれた、と言ってもいい光景だった。