Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

 早瀬が、呼んだとたん。




 ずささささささっ!




 出し抜けに、公園の砂場が盛り上がったかと思うと。

 信じられないほどでかい手が二本、砂の中から飛び出した。

 太く、長い爪の生えたゴツイ手は。

 何かを探すように、しばらく砂場の中を手探りしていたが。

 程なく砂場の縁の木枠を見つけて、その手をかけた。




 ずぼぼほぼっ!



 まるで、水の張ったプールから上がるかのように、牙王、と呼ばれた男が砂場から飛び出してきた。

 でかい。

 身長は軽く二メートルは越えていそうだ。

 ぼろぼろなTシャツと、元はジーパンだったらしいズボンからはみ出している手足には、鎧のような筋肉がついていた。

 なにより、印象的だったのはその赤い髪で。

 ヒトの血液が固まって出来たような不吉な色は、僅かな外灯の光でも、赤々と不気味に映えた。

「けぇっ、ぺっぺっ。
 なんて、トコロに呼び出してくれんだよ!
 砂が、口に入ったじゃねぇか」

 牙王、と呼ばれたその男は、不機嫌そうに毒づくと、まず、仲間のはずの早瀬を睨んだ。