Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

 アイツが、世界の破滅を望んだら。

 本当に。

 全世界が崩壊してしまうかもしれない。

 アパートを一棟丸々、吹き飛ばすくらい、ヤツにとってはなんでもない事だった。

 それだけ『財力』という。

『社会的身分』とやらという。

『力』を持った女だった。

「本当に、残月様には、同情をいたしますわ」

 同情、などカケラもない声で、早瀬は、言った。

「あの方に愛される事は、とても光栄でしょうが……あの、お姿では。
 残月様でなくとも、男性ならば、皆。
 逃げ出したくなるのでしょうね」

 雇い主であるはずの、主人のはずなのに。

 そんな言葉が出ても、別におかしくないほど、アイツの姿が壊れている事も知っている。

 しかし。

 そんなことは、俺にとってどうでもよかった。

「……年を取ることは、そう、醜いことでも、悪い事でもない。
 美しかったアイツの姿が年とともに変わったから、俺はクロイツを去った訳ではないんだ」

「では、何が問題なのですか?
 わがままを言わずに、お戻りください」

「嫌だ」

「あなたが逃げ回るたびに、犠牲になる方が増えますよ?」

「……それでも……戻れない」

 アイツの望む形では。

 いずれ、早いうちにアイツの部屋へ乗り込んでいく事になっても。