Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

「私は、早瀬 聡里(はやせ さとり)と申します。
 ローゼン・クロイツの代表、代理として残月様をお迎えに参上しました。
 どうぞ、私と一緒に本部へお帰り下さりますように」

「……その話は。
 もう、大分前に断ったはずだ」

 俺は、油断なく辺りを警戒しながら、囁いた。

 公園は、たいして広くない。

 昼間は、子供達が占領しているだろう、ブランコや砂場、すべり台などが、点在し。

 月光と。

 街灯と。

 未だに燃え続けるアパートの火の粉の欠片に、浮かび上がっている。

 あとは、公園の反対側に、彼女が乗って来たらしい、黒塗りの高級車が一台だけで。

 彼女の他に、ヒトの気配は、無い。

 だけども、俺は。

『本当に他に誰も居ない』とは、全く思っていなかった。

「なぜ、そう拒絶なさるのです?
 私達は、あなたを害する気はありません。
 それどころか。
 都内の最高級のマンションと、金額の記入欄が白紙の小切手帳。
 それに、あなたの『食事』のための美しい女性達を、そろえてお待ちしていますのに」

 にこやかに微笑む早瀬の顔は、氷の彫刻のようだ。