Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

「……草原と、太陽の匂いのする天使、ですか?
 吸血鬼に、これ以上似合わない称号は……ないですね」



 大挙して押し寄せる、消防車と救急車のサイレンの音を間近で聞きながらも。

 奇妙に人通りの無い、公園に降り立ったそのとたん。

 女の声に、呼び止められた。

 不可視をまとっているにもかかわらず。

 また、皮膜の翼が肩から生えたままの。

 力一杯ヒトにあらざる俺の姿に、驚いた気配さえない。

 ただ。

 ……血と、消毒薬の臭いがする……

 そして、他の臭いも。


 ヒトには絶対。

 あるいは、犬でも判らないかも知れない、かすかな独特の臭いだった。

 見なくても判るその正体に、俺は、嫌々振り返った。

「ローゼン・クロイツ……だな?」

 俺の、確認の言葉に。

 黒いパンツ・スーツを着た三十代ぐらいの女が。

 陽のすっかり落ちた夜だというのに、サングラスをかけている顔が微笑んだ。

「……そうです。
 残月様」

 言って、女は深々と頭を下げた。