Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】

 凛花が、人ごみに消えてゆくのを待って、俺は『不可視』をまとって、本性をさらした。

 爪が長く伸び、口が耳まで避けていくのが判る。

 闇より黒い髪が、地面につくほど伸びて、マントのように風に翻った。

 そして、翼が。

 先端に鋭いカギ爪のある漆黒の皮膜の翼が、鈍い痛みとともに、出現した。

 人ごみのただ中で、化け物が一匹現れたと言うのに、誰も俺を見る奴はいない。

 身にまとった『不可視』は、人間の目には、俺の存在を無いモノとして写さないから。


 しかし。


 翼を広げて、空に舞ったとたん。

 射抜くような視線が、俺に絡みついた。

 ……やはり、いる。

 不可視の効かない、人間以外のナニかが。

 俺は、視線を振り払うように、夜空へ舞った。




 そのとたん。




 ごうん、という低い音とともに、熱風が俺に向かって絡み付いてきた。

 

 火勢がひどい。



 逃げ遅れた少女を生きて救出するの気ならば、もう。



 一刻も余裕が無かった。