ここで俺が動かなかったら、あの少女は、死ぬ。

 煙に巻かれ、火に焼かれて死ぬ……

 俺の、せいで。

 ……助けに、行きたかった。

 しかし。

 動く事も出来なかった。

「……残月……?」

 心の動きに、いち早く気づいた凛花が、俺の顔を見上げた。

「……いや。
 なんでもない。
 ここは、危険だ。
 すぐに移動しよう……」

「……残月……あのコを助けに行かないの……?」

「これ以上目立つと『敵』に俺の正体がばれる。
 俺自身はともかく、連れだと判れば、今度はお前の命が危なくなるだろう」

 敵は、冷酷だ。

 奴らは、自分達の命以外は『命』として認めていない。

 だから、こんな風に、ヒトの住処を簡単に吹き飛ばしてしまえるのだから。

「じゃあ、私が残月から離れれば。
 残月は、あのコを救いにいける?」

 凛花の言葉に、俺は思わず眉を寄せた。

「……お前。
 それは、どういうことか、判っているのか……?
 あの外道の家に、戻るって言う事なんだぞ?
 やっと、アイツから逃げてきたって言うのに。
 また夜毎、身体を引き裂かれたいのか?」

「……ごめんね、残月。
 今度は、何をされても、もう、残月の名前を呼ばないから……
 残月を煩わせることは、しないから……
 あのコを助けて?
 目の前で、ヒトが死んじゃうなんて、嫌。
 絶対、いやなの……」

「凛花……」